2012年8月4日土曜日

部屋を閉め切ると被曝量が増える?

【はじめに】
福島で大気中の放射性物質吸入による内部被曝をおそれて窓を締め切っている方がおられるという”噂”をたまに聞きます。放射性物質が大量に降り注いだ原発事故直後はそれが正解でした。では2012年の現状で窓を締切るとどうなるのでしょうか?コンクリート建築で換気を止めると室内に放射性物質のラドンがこもるので被曝量が逆に増加するはず...。資料をもとに考察してみます。

【ラドンとは】
ラドンは自然界に存在する物質で、大地やコンクリートの壁から湧きだしてくる気体です。岩盤中にはウラン(U238)が含まれています。これが崩壊するとラジウム(Ra226)となり、さらに崩壊するとラドン(Rn222)になります。また建物のコンクリート内にも微量のラジウムが含まれているため、ここからラドンが発生します。ラドンはα粒子を発するため呼吸により肺で内部被曝を生じます。アメリカでは毎年2万人前後がラドンによる肺がんで死亡しているとされ、アメリカ環境保護庁(EPA)による防護キャンペーンが行われています。ラドン対策として最も重要なのは換気で、部屋の空気を外気と入れ替えることで室内に篭るラドンを追い出します。

(ラドン・見えない殺し屋/コロラド州公衆保健環境局&EPA)


【呼吸によるセシウムの内部被曝】
現在、福島で問題になっているのは放射性セシウム(Cs134, Cs137)による汚染です。福島大学(福島市)のグループが外気中の放射性セシウム量から呼吸による内部被曝を推定しています。それによると、大気中の放射性セシウムはCs134とCs137の合算で0.0018 Bq/m3、年間0.12 µSv (年間0.00012 mSv)の被曝量になるとのこと(資料1)。

【呼吸によるラドンの内部被曝】
次にラドンでの被曝量を考えてみます。屋内の空気中のラドン量は全国平均で15.5 Bq/m3、福島県は15 Bq/m3。ちなみに最高は広島県の33 Bq/m3, 最低は宮城県の10.5 Bq/m3です (資料2) (さらに余談ですが前述のアメリカ合衆国における屋内平均は48 Bq/m3, コロラド州のスキーリゾート地アスペンでは屋内平均315 Bq/m3になります(資料3))。ラドンからの被曝量は以下の様にして求められ、福島県でのラドンによる平均被曝量は年間0.4 mSv前後と計算されます。

(Wikipedia 「ラドン」より)


【換気しないと室内での被曝量はどうなる?】
では、日本において部屋を閉めきると、コンクリ建築内でのラドン濃度はどうなるのでしょうか?実は、この変化を調べた論文がありました(資料4: 山西ら 1994年)。この実験で使用した建物では、通常では室内のラドン濃度は12-15 Bq/m3と日本でのごく一般的な数値。しかし部屋を密閉すると、これが約200 Bq/m3まで上昇します。つまり、年間約5 mSv。先ほどの福島大学によるセシウムの数値と比較すると桁違いの被曝をすることになります。ここまでの密閉は極端でしょうが、換気をおこたって室内に引きこもると却って被曝量が増加することがおわかりいただけると思います。

【まとめ】
換気をしないと、室温の調整も難しくなりますし、部屋の中にハウスダストが蓄積する等の健康リスク増加が見込まれます。個人的信条で被曝軽減の代償としてこれを受け入れる方もおられるかもしれませんが、現実には被曝量も増えている可能性が高いと思われます。砂塵に結合したセシウムの吸入は懸案事項としてありますが、風のそう強くない日は換気をした方があらゆる健康リスク軽減につながるのではないでしょうか。